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頭をよくさせる技法が現れては消えていく

「はじめに」に書いたことだが、もう一度念を押していえば、「頭の回転が速い」ということは、「機転がきく」ということ、また広い意味では、「頭がよい」ということだ。
これまで、頭をよくするための技法とか薬が、さまざまに現れては消えていった。しかし、頭をよくさせる技法というのは、突き詰めると「もっとよく勉強する」ということであり、勉強できるくらいなら、とっくに頭はよくなっているさ、という堂々巡りで終わるのが常である。


ひと昔前を五回ほど繰り返した昔のことであるが、グルタミン酸ナトリウム(うまみ調味料の原料)が頭をよくする、という実験結果が公表されたことがある。私が小学校高学年のころのことだ。
私は学業成績においては、常に後塵を拝していた(七〇人中、下から二番目であった)ので、この報道には気の遠くなるほど喜んだものだ。
事実、将来が無限に開けたかのように感じたものである。そこで早速、うまみ調味料を手のひらにのせて何の躊躇もなくパカッと口に含んだのだが、その何ともいえないひどい味に辟易したものである。あの味はもう二度と味わいたくない。


今にして思えば、香水の芳しい香りも、濃縮すればスカトール(便臭の源)と同じになるのと同様の理屈なのだ。
何事も粘ることが成功の条件の一つである。そこで懲りずに、オブラートにくるんで飲むことにした。とはいえ、少年にしては、何とも他力本願の極みというべきか、それとも向上心の固まりというべきか、飲んだとき、喉でチリチリという音が体内音として聴こえたことを、今でも昨日のごとく覚えている。


しかし、私がこの未知なる実験に挑んだ直後、私にとっては幸か不幸か絶望的な記事が載った。それは確か、次のような内容であったと思う。
「まさか飲んでいるような人はいまいが、もし飲んでいるとしたら直ちにやめるべきだ。グルタミン酸のような分子構造の大きいものは、多くは胃で分解されてしまううえに、その分解されたものが脳内に送り込まれると脳細胞を破壊し、四肢の麻痺という副作用をもたらす」といった内容であった(その後数十年経って、中華料理症候群というものがあるのを知った。グルタミン酸を大量に使う中華料理で頭痛やのぼせ、手足のしびれを起こす人が続出して問題になった、という)。


このときはいうまでもなく、私は絶望の淵に立たされた。それは四肢が麻痺するなどという、どうでもよいことではなく(頭がよくなることを思えば、四肢の麻痺など、本当にどうでもよいことだ、と当時の私は確信していた。宇宙物理学者のホーキング博士は、その意味で尊敬に値する)、効果がないということに強烈な打撃を受けたためである。
こうしてそれ以来、うまみ調味料とは、しょうゆに添えた普通のおつき合いに終始している。