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〈第2章〉聴覚刺激が脳力を向上させる

2. 速聴®に“苦痛を感じる” 努力は不要

速聴®でなぜ頭の回転が速くなるのか

このアメリカ産の速聴レコーダ(実際にはカセット・プレーヤなのだが、本書では一般に通称されている用語を用いた)は、音質の悪さにもかかわらず、非常に人気を呼んだ。テープの速さを二倍にしても、何とか努力すると、何を言っているかがわかるのだ。 しかし、アナログ式の回路を用いているため、二倍速にすると、こもったような音になってしまうのが欠点であった。


ところで、なぜ「速聴」によって頭の回転が速くなるのか。
実はこれはとても簡単な原理なのだ。
人間の大脳には音声を処理するための二つの領域がある。その領域(厳密には小脳等も関与している)が音声処理(言語処理)にかかわっているので、「中枢」と呼ぶ人もいる。
くどいようだが(事実、くどいが)、話をわかりやすくするため、ここでは「ウェルニッケ中枢」に的を絞って話を進めよう。


耳から入った音声は、すぐ「ウェルニッケ中枢」に達する。このことはすでに述べた。
しかし、もう一度、再整理してみよう。「ウェルニッケ中枢」にまで達した音声は、そこで二つの処理を施される。


1・・・電気信号化された音声の言語化
 レコード・プレーヤでいう「振動→電気信号→音声化」と同じようなもの。
2・・・音声の「意味」の確立
 つまり、入力された音声が、何らかの「意味」を持っていることを、脳のさまざまな部位から超高速で情報収集して調べあげ、その「音声」に「意味」をあてはめること。


「ウェルニッケ中枢」に入力された音声は、ここで初めてその音声が何を言っているのかが理解される。ここではまず、音声信号から言語符号への変換がなされる。と同時に、すでにストックされている長期的記憶や短期的記憶、全脳に配置されているさまざまな脳力が総動員され、「理解し得るように整理される」わけだ。「追唱」は、このような処理を行っているときに生じる「脳のつぶやき」である。


これは、音声だけでなく、目を通して視覚から入力された文章についても同じことがいえる。これもまた「ウェルニッケ中枢」に入力されて、「追唱」されるのである。
つまり耳で聴いたことも目で読んだことも、結局は電気信号となって「ウェルニッケ中枢」に至り、「追唱」されるわけだ。


そして約一〇〇分の一秒後に、その整理された音声はブローカ中枢に達する。
ブローカ中枢に到達した言語符号は、他の大脳の各中枢も参加して、その言語符号の意味内容に従って、行動なり、行為を起こす中枢に高速伝達されたり、あるいは記憶領域や感情領域に伝達されたりする。







耳から入った聴覚情報や目からの視覚情報は
「感覚性言語野」と呼ばれるウェルニッケ中枢[A]に送られ、
そこでそれらの情報の中から言語情報だけを理解する。
そして言葉として理解された情報は、言葉を発する際の顔や舌などの筋肉を
制御する働きを持つブローカ中枢[B]、別名「運動性言語野」に達する。
この2つの言語野が正常に機能して、
人間は初めて話し言葉や文章を理解し、会話することができるのである。

図2はウェルニッケ中枢内の脳神経細胞のイメージである。
星状のものが脳神経細胞(細胞体)で、そこから張り出した根のようなもののうち、
太くて長い一本の突起を「軸索」といい、
他の短い根のようなものを「樹状突起」と呼び、
これらすべてを含めたものを「ニューロン」という。
ニューロンは他の細胞体のニューロンと結びつき(これを「シナプス接合」という)、
そのシナプス接合の密度の具合によって言語情報の処理脳力が決定される。


なお、脳内の情報伝達は脳神経伝達物質によって化学的になされる、と説明されることがよくあるが、これは電気的に伝達されるという主張と対立するものではない。
なぜなら脳神経細胞の枝の末端(シナプス)は神経刺激物質(ホルモンも含む)によって情報の伝達がなされるが、シナプスをしてそのようにならしめるのは、活動電位(電気的な興奮のこと。電位という言葉は、たとえていうならば水位と同じで、電流は電位の高い所から低い所に流れる)の流れそのものだからである。


要するに、情報は電流として流れるのではなく、電気的な興奮が移動することによって運ばれるというわけである。しかし、それも広い意味では電流といって間違いではない。
ところが、この「追唱」の速度が遅いと、音声の理解力も読書の理解力も遅くなってしまうことがわかっている。たとえば、遅読などは「追唱」速度が遅いためである。


「ウェルニッケ中枢」といえども大脳の一部である。そこにも大脳神経細胞があり、その細胞同士が軸索を伸ばして、他の細胞とつながり合っているのは、これも他の大脳の部分と変わりない。ただ、違うとすれば、「ウェルニッケ中枢」は、音声処理と音声理解の専門部隊である、ということだ。
このことは何を意味するかというと、「ウェルニッケ中枢」さえ自分のものにすれば、他の大部隊、つまり大脳自体の働きを、いかようにも高めることができる、という事実である。


「速聴」の意義がここにある。「速聴」というのは、普段の数倍の速さの音声を聴くことである。その音声はどこで受け止められるかというと、実際、われながらしつこいとは思うが、「ウェルニッケ中枢」だ。「ウェルニッケ中枢」にとっては、これまで味わったことのない経験をすることになる。普段の数倍の音声がどんどん送り込まれてくるので、それに対処しなければならない。


どうやって対処するかというと、その中枢にある脳神経細胞同士のつながり(シナプス接合)を増やすしかない。そうすることによって、この“普通ではないスピード”を持った音声を、何とか処理し、理解できるようになる。つまり、頭の回転が速くなる、というわけだ。


しかし、二倍速の音声ではまださほど効果はない。もっとも昔は、それでも大した効果だ、と思っていたが。二・五倍速にしたらどうだろう。
「ウェルニッケ中枢」に普段より二・五倍速い音声を数週間から数カ月、一日三〇分ほど、入力してみる。これに対して、「ウェルニッケ中枢」は、さらに脳神経細胞間のつながりを増やして対処しようとする。


人間の脳神経細胞は、全体で三パーセントしか使われていないことは、周知のとおりだ。厳密にいえば、残り九七パーセントもそれなりに機能しているのだが、本書では的を絞っておく。使われていないということは、脳神経細胞同士が軸索によって接合されていないことを意味する。113ページに簡単な図を入れておいた。円いのが大脳神経細胞で、線は軸索ないし樹状突起だ。


こうして「ウェルニッケ中枢」の細胞間ネットワークが密になると、まず第一に「追唱」力が速くなり、同時に「理解力」が高まる。このことを別の表現をすれば「頭の回転が速くなる」、もっと簡単にいえば「頭がよくなる」ということになる。


そして、他のさまざまな脳力も確実に高まる。「洞察力」「判断力」「先見力」「集中力」等々、枚挙にいとまがない。何であれ、緻密なネットワークができあがったところに、普通の速さの情報を入力すれば、ネットワークには余裕ができているわけだから、まず「ウェルニッケ中枢」において、その情報はあらゆる角度から分析されることになる。
しかもほぼ同時に、その入力情報は他の大脳部分へパワーアップされて高速伝達されるため、受け止めた大脳部分も活性化せざるを得ない。


こうして、「速聴」は、子供から上は年齢に関係なく、誰にでも容易に習得できる脳力開発法なのである。「ただ聴くだけでよい」という容易さが、先ほど述べた速読とは比べものにならないくらいの効率のよさをもたらしてくれるのだ。
同時に、ひとたび脳内に「速聴回路」ができあがったら、よほどの長期間、“頭を使わない”かぎり、いきなり元に戻ってしまうということもない。世の中には種々多様なソフトウェアが販売されている。そういう意味でも、「速聴」は「生涯教育」に最も適しているのである。








ここに脳神経細胞が20個あるとする。そのうち使われるのは3%で0.6個。
30%だとしても6個しかネットワークされていない、網の目の粗い脳細胞の状態である。


通常脳細胞は加齢とともに減少していく。しかし、ネットワークを密にすれば、衰弱する細胞を補って、脳の働きの衰えをカバーすることができる。


「速聴」を始めると、その高速音声を理解するために、脳細胞は互いにその軸索を伸ばし、ネットワークの密度を高めようとする。
ただし、すぐに「速聴」をやめた場合、その効果は表れない。


3〜4倍速で「速聴」ができるようになると、ウェルニッケ中枢内のネットワークはさらに緻密になる。この状態で普通の音声を聴くと、会話の次の展開までわかると感じるほど、人の話がゆっくり聴こえるといわれている。